当センターについて

ごあいさつ

なぜ
北海道大学病院研修プログラムが
優れているのか?
~医師キャリアの
      スタートにあたって~

北海道大学病院
病院長
 

渥美 達也

 北海道大学病院は札幌市の中心部にあり、大学病院として高度で先進的な医療、そして札幌や北海道の急性期地域医療を担っている病院のひとつです。本院100年間の歴史のなかで一貫しているのが、私たちの活動はすべて患者さんのためである、という精神です。すなわち、現在、そして将来にわたって良質な医療を患者さんに提供するために、ひとりひとりの患者さんの診療に全力を尽くすことはもちろん、未来の医療を担う有能な医療人を育成するための教育、そして先進的な医療、あたらしい医療を社会に提供するための臨床研究を活動の柱としています。診療・教育・研究の活動を通じて、最大限の社会貢献をおこなうことを全職員が理念として共有しています。

 さて、みなさんはいよいよ社会人として医療の現場にたつ段階となります。このステージにおいて何をすべきか、おそらく日々熟考の最中と思います。実は医師のキャリアのなかで、どのステージにおいても、リアルワールドとして実践すべきことにそれほどの差異はありません。臨床的な、あるいは学問的、管理的な問題点に直面したら、それをプロフェッショナル/チームリーダーとしてどのように解決するか、その繰り返しです。社会人ことはじめの臨床研修の2年間は、とにかくできるだけ質の高い問題点を多く経験していただくことが肝要です。

 北海道大学病院の研修プログラムは、毎年進化しています。それは社会や他学と表面的に足並みを合わせるのではなく、本院の提供できる優れた環境を最大限に利用し、また、研修される先生方の個々の進路や希望に沿うように多様化させてきた結果、オーダーメードといっていいほど選択肢があります。その中で重要なことは、どの選択をしたとしても、各診療科の一流の指導スタッフが、みなさまにとって「最も質の高い問題点」を常に提示する用意があるということです。みなさんが経験する症例の数だけを議論するなら、大学病院以外が提供する研修プログラムに有利な点もあります。しかし、ひとりひとりの患者に存在する多様な問題点を、本院の充実した指導陣とともに、ひとつひとつ丁寧に、学問的に、最高レベルで解決法を学び体得することは、このステージにおいてたいへん意義のあることと信じます。

 札幌市の中心部にありながら緑豊かで広大な北海道大学キャンパスを背景に、ぜひ私たちといっしょに理想の医療をめざしてみませんか? 

新しく創り上げて欲しい
~あなたの力を
  最大限発揮するための
        特別な環境~

北海道大学病院 臨床研修センター
センター長
副病院長
 

平野 聡 

臨床研修の期間で目指すゴールは?

 北海道大学病院 臨床研修センター長として、これから研修を開始される学部生、あるいは現在すでに研修中の先生方にメッセージをさせていただきます。

 臨床研修制度が開始されてから、医科・歯科ともおよそ15年が経過しました。それ以前は出身大学関連の単一診療科でストレート方式の研修が行われていましたが、専門領域に偏った研修であり、幅広い診療能力が身に付けられないという批判がありました。その反省をもとに必修診療科を指定したローテート方式が取り入れられ、出身大学とは異なる施設を自由に選択できる臨床研修システムが始まりました。さて、現在まで、この制度の大きな目標であった「幅広い臨床能力の獲得」はどの程度達成されたのでしょう。現在、「専門医」という言葉はあまりに有名になりましたが、ほぼ全ての研修医は臨床研修の修了後に(あるいは途中から)、この「専門医」=「卓越したプロフェッショナル」を目指して習練を開始します。実は「幅広い臨床能力」とは、この「専門医」がもっているべき最も基本的な医療者としての基盤に他なりません。どの領域の「専門医」にもその専門を極めるための”土台”が必要であり、臨床研修の期間はこの土台を築くための期間ということになります。では、土台作りにどれだけの時間が必要でしょうか?実際に基盤作りにはそれほど長い期間は必要がありません。いち早く基盤を作り終えて、専門医として必要な臨床能力を身につける準備に入らなければ、とても効率の悪い時間を過ごしてしまうことになります。臨床研修の期間を単に医師になるための”練習”と思って、制度の定めた到達目標をゴールと決めこんでいるあなたは、大きな誤解をしているといえます。

 尚、医科の研修期間が2年なのに対し、歯科の研修期間はさらに短く1年と定められています。皆さんも学生時代に経験していると思いますが、のんびり構えて過ごしてしまうと、この研修期間はあっという間に過ぎ去り、その成果もままならないということになります。研修のスタート時から、修了後の成長した自分の姿を想像し、修了までの間になすべきことをしっかり決定しておくことが大切です。

身につけなくてはいけない能力は三つある!

プロフェッショナルとして必要な能力のことをコンピテンシー(Competency)と呼びます。きちんとした医師=専門医として働くために必要な能力は、上で述べた臨床能力(Clinical Competency)だけではありません。加えて研究能力(Research competency)と技術能力(Technical competency)が必要です。

 臨床能力が最も現れるのは患者さんやその家族、同僚や先輩医師、あるいは他のメディカルスタッフとのコミュニケーションの場面です。また、研究など全く興味が無いというあなたも、多くの臨床試験や治験の情報の海の中で、どれが本当に正しく、どの情報が不確かなのかをきちんと判定する能力=研究能力がなくては患者さんを最善の方法で治すことができません。

 さらに、医療の現場で行われるあらゆる行為、すなわち聴診・打診などの診断技法から採血などの観血的手段、はたまた高度な手術まで、すべてが技術です。これらの技術を高め、常により高度なものへ発展させる努力=技術能力は臨床研修の1日目からすでに要求されていて、どんなにベテランになっても継続的に求められる能力なのです。
 従って、臨床・研究・技術という三つのコンピテンシーをいかに早く身につけてプロとして活躍できるかは、臨床研修で過ごす施設と自身の心掛け次第で大きく変わるのです。
 

北海道大学病院で“働く”ということ

 臨床研修医に習練は必要ですが、北大病院が単なる職業訓練の場でないことを理解する必要があります。北大病院は診療内容や外来・入院患者数など、名実ともに北海道の中心となる医療機関です。医科29・歯科14の診療科が924の病床数を有し、常勤・非常勤を併せ約3,000名の職員が年間延べ約30万人の入院患者と約75万人の外来患者を受け入れます。私たち北大病院の使命は北海道の医療における「最後の砦」であることはもちろん、極めて治療に難渋する患者さんが全国、あるいは海外から来院されます。そこでは年齢や経験など全く異なる医療者が一つのチームとしてその困難な治療にあたることで初めて一定の成果があげられます。すなわち、臨床研修医でも積極的に治療に参加し、貢献する=“働く”ことを意味します。研修医による型にはまらない斬新な発想と、なんとしても治したいという情熱が、高度で先進的な医療にも極めて重要な要素であることを我々は知っています。

 もちろん、市中病院研修でいわゆるcommon diseaseを経験し一定の感触を得る事も必要です。しかし、その経験数は真の実力と全く関係がありません。大切なのは、どんなに困難な状況に遭遇しても、その条件で持ちうる能力を最大限発揮して、いかに最善の策を講じることができるかという応用力が実力の証です。勿論、日常よく出会う疾患はそのような努力がなされなくとも、全員にほぼ同じ治療が可能であり、その結果は安定しています。しかし、北大病院の多くの患者の治療はそうはいきません。研修医からベテラン指導医まで、全員が持てる力を総動員して患者の治療にあたり、より良い結果を求めなくてはならないのです。つまり、研修医にも治療チームの一員としての重要な役割があるのです。

北大病院研修医としての誇り

 あくまでもあなた方のゴールは単に臨床研修を修了するという小さなものではないことはわかっていただけたと思います。研修期間はスタートダッシュのタイミングとして本当に貴重な期間です。まず必要なのは社会のニーズに応え、質の高い医療を提供できる「プロフェッショナルな自分」を見据えてスタートラインに立つことです。

 北海道大学には開学当時から引き継がれる基本理念である「フロンティア精神」があります。“時代ごとに変化するさまざまな問題を直視し、敢然として新しい道を切り拓くべき”という北海道大学を約150年支えてきた揺るぎない精神です。北大病院に全国の大学の卒業生が研修医として集まり、交流を深めながら自らが切磋琢磨し、この「フロンティア精神」のもと、他のどの施設にもない新しい研修のかたちを創造する主役であってほしいと願っています。北大病院はそのような“lofty ambition”(高邁なる大志)を持つ研修医に最大限のサポートと活躍の場を提供します。

 最後に、誇り高き北大病院研修医が全国で、あるいは世界で大いに活躍できる医療者として巣立つことこそが、私たち研修担当者や指導医はもちろん、北大病院全職員の切なる願いであることをつけ加え、メッセージといたします。